昨今、顧客や取引先からの理不尽な要求や言動、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となっています。
従業員を守り、誰もが働きやすい職場環境を維持することは、今や企業の重要な責務です。
この動きを受け、東京都は令和7年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行しました。そして、この条例の浸透を後押しするため、都内の中小企業を対象とした非常に画期的な奨励金制度を開始しました。
それが…

カスタマーハラスメント防止対策推進事業(企業向け奨励金)です


この制度は、カスハラ対策に取り組む企業に対し、
単なる助成金ではなく、従業員を守る体制を構築するための「投資」を都が支援してくれる、経営者にとって見逃せないチャンスです。
今回は、この新しい奨励金の概要と、対象となる要件、具体的な取組内容について、ステップ形式で分かりやすく解説していきます。




【カスタマーハラスメント防止対策推進事業とは?】


この奨励金の目的は、「カスタマー・ハラスメント防止条例」で定める措置を、都内の中小企業が速やかに実践できるよう支援することです。
具体的には、企業がカスハラ対策の「マニュアル」と「基本方針」を作成し、さらに実践的な防止策(録音・録画機器の導入など)を1つ実施することで、奨励金を受け取ることができます。
一過性の補助金とは異なり、この奨励金を活用して社内体制を整備することで、従業員の定着率向上や、健全な企業経営に繋げることが期待されます。
【奨励金の対象となる会社は?(対象要件)】


奨励金の申請日時点で、以下の主な要件をすべて満たしている必要があります。
簡単にまとめると…
- 企業の規模:常時雇用する従業員が300人以下であること。
- 事業の場所:
- 法人の場合:都内に本店または支店の登記があること。
- 個人事業主の場合:都内の税務署へ開業届を提出していること。
- 事業継続期間:都内の事業所で継続して1年以上事業を行っていること。
- 納税状況:都税(法人事業税・法人都民税など)の未納がないこと。
- 法令遵守:過去5年間に重大な法令違反等がないこと。
- その他:風俗営業関連の事業者ではないこと、暴力団関係者でないことなど。
【何をすれば奨励金がもらえるの?(取組要件)】


ステップ1:マニュアルと基本方針の策定


以下の2つを策定し、社内外へ周知することが必須となります。
- カスタマーハラスメント対策マニュアルの作成
- 条例に言及しつつ、カスハラの定義や基本方針、対応フロー、相談窓口の設置など、定められた必須項目をすべて含んだマニュアルを作成または改定する。
- これを社内に周知します。
- カスタマーハラスメントに対する基本方針の周知
- 上記のマニュアルで策定した「基本方針」を、社内と社外の両方に周知します。
- 社外への周知は、自社のホームページへの掲載や、店舗内でのポスター掲示などが想定されます。
マニュアルはこちらのリンクで雛形が公開されています。


ステップ2:実践的な取組(3つの中から1つ選択)


必須の取組に加えて、以下の実践的な取組の中からいずれか1つを選択して実施します。
取組①:録音・録画環境の整備


顧客とのやり取りを記録するための、録音・録画機能のある機器を新たに購入またはリースします。
- OK例:通話録音装置の購入、録画機能付き防犯カメラのリース契約(6ヶ月以上)など。
- NG例:スマホやPCなど汎用性の高い機器の購入、既存機器の買い替えや契約更新は対象外です。
取組②:AIを活用したシステム等の導入


カスハラ対策に役立つAIを活用したシステム等を新たに購入または契約します。
- OK例:通話内容からトラブルを検知するAIシステム、クレーム対応の疑似体験ができる訓練システムの導入など。
- NG例:汎用的な生成AIの利用など、カスハラ対策が主目的でないものは対象外です。
取組③:外部人材の活用


カスハラ対策のために、弁護士や社会保険労務士などの専門家や警備会社と新たに契約します。
- OK例:従業員の相談窓口として社労士と顧問契約(6ヶ月以上)を結ぶ、カスハラ対応研修の講師を弁護士に依頼する、警備員の駆け付けサービスを契約するなど。
- NG例:既存の顧問契約の更新や、他社が主催するセミナーへの参加は対象外です。
ステップ3:Jグランツで申請する(GビズIDプライムが必須)


要件を満たし、必要な取組を完了させたら、いよいよ申請手続きに進みます。
申請はすべてオンラインで行うため、事前の準備が非常に重要です。
申請方法
申請は、国の電子申請システム「Jグランツ」からのみ受け付けられています 。
Jグランツを利用するには、
「GビズIDプライム」というアカウントが必要になります 。
\GビスIDのアカウントの作成はこちら/
発行までに2週間以上かかることも珍しくありません 。第2回の募集期間は限られていますので、申請を検討している方は
今すぐGビズIDの取得手続きを開始してください。
主な提出書類一覧


申請にあたり、主に以下の書類をPDF等で準備し、Jグランツ上で提出する必要があります 。
- 基本書類(全事業者共通)
- 支給申請書(様式第1号)
- 誓約書(様式第2号)
- 事業所一覧(様式第1号別紙)
- 会社案内または会社概要(ホームページの写し等)
- 法人・個人事業主の確認書類
- 【法人の場合】商業・法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)(発行後3ヶ月以内)
- 【個人事業主の場合】個人事業の開業・廃業等届出書および代表者の住民票
- 納税証明書
- 【法人の場合】法人事業税と法人都民税の納税証明書
- 【個人事業主の場合】個人事業税と住民税の納税証明書
- カスハラ対策の取組を証明する書類
- 作成したカスタマーハラスメント対策に関するマニュアル
- マニュアルを社内に周知したことが分かる書類(メールや掲示物の写真など)
- 策定したカスタマーハラスメントに対する基本方針
- 基本方針を社内と社外に周知したことが分かる書類(HPのスクリーンショットや店舗掲示の写真など)
- ステップ2で選択した実践的取組の実施を証明する書類(機器購入の領収書・写真、専門家との契約書など)
\募集要項はこちら/


【申請期間と申請方法】




第2回の申請受付は、令和7年9月頃を予定されています。
申請方法 国の電子申請システム「Jグランツ」でのみ申請可能です。
郵送や持参はできません。 申請には「GビズIDプライム」のアカウントが必須です。
IDの発行には2週間以上かかる場合があるため、申請を検討される方は、今のうちにIDの取得手続きを開始しておくことを強くお勧めします。
【まとめ】


今回は、東京都の「カスタマーハラスメント防止対策推進事業(企業向け奨励金)」について解説しました。
この奨励金は、単にお金がもらえるというだけでなく、法律の専門家である私の視点から見ても、非常に意義のある制度だと感じています。
なぜなら、カスハラという経営リスクに対する具体的な対策を、金銭的な支援を受けながら社内に導入できる絶好の機会だからです。
従業員が安心して働ける環境は、サービスの質を向上させ、ひいては会社の持続的な成長に繋がります。
第1回の募集は早期に終了しましたが、9月頃には第2回の募集が予定されています。
この記事が、次回の申請に向けた検討材料となれば幸いです。
税理士として、こうした事業環境の改善に繋がる制度の活用も、経営の一環として積極的にサポートしてまいります。
「自社に合った対策がわからない」「申請手続きが複雑そうだ」といったお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。経営者の皆様が安心して事業に専念できるよう、全力でサポートいたします。
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