荒川区の税理士、岡崎友彦です。
令和8年7月30日、高市総理大臣は記者会見において「飲食料品に係る消費税率の引下げ」および「給付付き税額控除」に関する政府方針を提示しました。
政府は令和11年に「所得に連動したきめ細かな給付」の本格導入を目指します。
その本格導入までの「つなぎ」の措置として、令和9年4月(法案審議等の状況により想定される施行期日)から2年間、飲食料品の消費税率を1%へ引き下げる方針が発表されました。
事業者のレジ改修等の準備期間を考慮した設定です。
参考:首相官邸:「飲食料品に係る消費税率の引下げ」及び「給付付き税額控除」についての会見
今回は、この税率引き下げが飲食店の消費税納付額に与える影響について、具体的な数字を用いて詳細に試算します。

シミュレーションのモデルケース設定
本記事における試算の前提条件は以下の通りです。
季節による売上や経費の変動はなく、年間の数値を12等分して毎月均等に発生するものと規定します。
- 事業形態:個人事業主(飲食店経営、12月決算)
- インボイス制度の適用区分:2割特例の適用なし(原則課税または簡易課税)
- 年間売上高:2,000万円(全額が店内飲食、適用税率10%)
- 年間粗利率:70%(売上原価率は30%)
- 食品の仕入金額:年間600万円(月額50万円)
- その他の経費:年間800万円
- 課税経費:400万円(店舗家賃、水道光熱費、消耗品費、通信費など、適用税率10%)
- 非課税経費:400万円(従業員給与、法定福利費など)
- 事業所得:600万円(売上高2,000万円 − 仕入高600万円 − 経費800万円)
この条件をもとに、税制の変更や計算方式の違いによる納付税額の差異を検証します。
計算例1:食品の消費税率が8%のまま推移した場合(原則課税)
現行の軽減税率制度がそのまま維持され、食品の仕入税率が年間を通じて8%であった場合の計算です。
原則課税方式では、「顧客から預かった消費税額」から「仕入や経費の支払時に負担した消費税額」を控除して納付税額を算出します。
1. 売上にかかる消費税額(預かった消費税)
店内飲食の売上は標準税率10%が適用されます。
2,000万円 × 10% = 200万円
2. 仕入および経費にかかる消費税額(支払った消費税)
- 食品仕入(税率8%):600万円× 8% = 48万円
- その他の課税経費(税率10%):400万円× 10% = 40万円
- 控除対象消費税額の合計:48万円 + 40万円 = 88万円
3. 納付税額の計算
200万円(売上分) – 88万円(控除分) = 112万円
現行制度のもとでは、年間112万円の消費税を納付します。
計算例2:令和8年4月から食品の消費税率が1%に引き下げられた場合(原則課税)
仮に令和8年4月1日から食品の仕入税率が1%に引き下げられた場合の計算です。
1月から3月までの3ヶ月間は税率8%、4月から12月までの9ヶ月間は税率1%が適用されます。
1. 売上にかかる消費税額(預かった消費税)
売上はすべて店内飲食のため、年間を通じて10%が適用されます。
2,000万円× 10% = 200万円
2. 仕入および経費にかかる消費税額(支払った消費税)
食品仕入高600万円を月額50万円(600万円 ÷ 12ヶ月)として計算します。
- 1月〜3月の食品仕入(3ヶ月分・税率8%):150万円× 8% = 12万円
- 4月〜12月の食品仕入(9ヶ月分・税率1%):450万円× 1% = 4.5万円
- 食品仕入の消費税額合計:12万円 + 4.5万円 = 16.5万円
- その他の課税経費(年間・税率10%):400万円× 10% = 40万円
- 控除対象消費税額の合計:16.5万円 + 40万円 = 56.5万円
3. 納付税額の計算
200万円(売上分) – 56.5万円(控除分)= 143.5万円
実務上の構造と資金繰りへの影響
仕入税率が1%に下がると、仕入先に支払う消費税額が減少します。
1月〜3月は毎月4万円の消費税を支払っていたのに対し、4月〜12月は毎月5,000円の支払いに減少します。
仕入代金の支払総額は減るため、日常の現金支出は抑えられます。
しかし、確定申告時に仕入税額控除として差し引くことができる金額も88万円から56.5万円へと減少します。
結果として、納付税額は112万円から143.5万円へ31.5万円増加します。
仕入時に支払う税金が減った分、最終的な納税額が増える構造です。
手元に残る金額の総額に変化はありませんが、決算時に一括で納付する資金の準備が必要となります。
計算例3:簡易課税制度を選択している場合
簡易課税制度は、実際の仕入や経費の消費税額を集計せず、売上にかかる消費税額に業種別の「みなし仕入率」を乗じて控除額を計算する制度です。
飲食店は「第4種事業」に分類され、みなし仕入率は60%となります。
1. 売上にかかる消費税額(預かった消費税)
2,000万円} × 10% = 200万円
2. 控除対象消費税額の計算(みなし仕入率60%)
200万円× 60% = 120万円
3. 納付税額の計算
200万円(売上分) – 120万円(控除分) = 80万円
簡易課税の特徴とメリット
簡易課税制度では、仕入税率が8%から1%に変更されても納付税額に変化はありません。
実際の仕入金額や適用税率を計算の根拠としないためです。
原則課税(計算例2)の納付額143.5万円と比較すると、簡易課税(計算例3)の納付額は80万円となり、63.5万円の税負担軽減となります。
仕入率や経費率が低い飲食店においては、簡易課税の選択が税制変更下での有効な選択肢となります。
3つの計算例の比較一覧
| 区分 | 売上消費税額 | 控除対象消費税額 | 納付消費税額 |
| 計算例1:8%継続(原則課税) | 200万円 | 88万円(実績) | 112万円 |
| 計算例2:R8.4〜1%導入(原則課税) | 200万円 | 56.5万円(実績) | 143.5万円 |
| 計算例3:簡易課税(第4種 60%) | 200万円 | 120万円(みなし) | 80万円 |
税理士の意見
税制改正におけるシミュレーションは極めて複雑です。
インボイス制度の各種特例措置の経過や、
店舗の設備投資による還付の有無、
さらには売上の季節変動などが複雑に絡み合います。
見通しの立たない未来の制度変更を予測して経営判断を下すことには大きなリスクが伴います。
裏技?消費税の還付を受けられるケースも?
仮に売上をすべて1%が適用されるテイクアウト販売へ切り替えた場合を試算します。
売上消費税額は2,000万円 × 1% = 20万円となります。
仕入控除税額が56.5万円であれば、20万円 − 56.5万円 = 36.5万円の還付を受ける計算になります。
税率の格差を利用したビジネスモデルの転換も含め、自社にとって最適な課税方式を選択することが重要です。

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