荒川区の税理士、岡崎友彦です。
毎年発表される税制改正大綱ですが、今回の2026年度(令和8年度)の税制改正大綱においては、資産家や不動産オーナーの方々、そして将来の相続に不安を抱えるご家族にとって、極めて影響の大きい見直しが盛り込まれました 。
一言で表現するならば、「貸付用不動産や不動産小口化商品を使った、行き過ぎた相続税の節税スキームに対して、国が極めて厳しいメスを入れた」ということです 。
不動産を活用した相続税対策は「王道」として広く提案・実行されてきました。
しかし、今回の改正により、これまでの常識が通用しなくなる部分が多々出てきます。
やり方を一歩間違えれば、想定外の多額の税負担を強いられるリスクが生じます。
今回は、この令和8年度税制改正大綱によって何がどう変わるのか、その背景にある国の意図、そしてこれからの相続対策はどうあるべきかについて解説いたします 。


なぜ「貸付用不動産の評価」が問題視されたのか?
そもそも、なぜアパートや賃貸マンションなどの不動産を購入することが、相続税の節税につながっていたのでしょうか。
相続税を計算する際、現金や預貯金はそのままの額面で評価されます。
しかし、不動産の場合は「実際の市場価格(時価)」と「相続税を計算する際の評価額(路線価や固定資産税評価額)」に大きな差が存在します。
一般的に不動産の相続税評価額は、市場価格を下回るように設定されるよう調整されています。
さらに、他人に貸し出す「貸付用不動産」にした場合、自由に使えない事情が考慮され、自宅用の不動産よりもさらに評価額が割り引かれます 。
ここに「借入金(ローン)」を組み合わせるのが、強力な節税スキームです。
現金1億円を持っている人が、銀行からさらに1億円を借り入れ、合計2億円で賃貸マンションを購入したとします。
このマンションの相続税評価額が仮に8,000万円になったとしましょう。
相続の際、財産としてプラスされるのはマンションの評価額「8,000万円」。
一方で、銀行からの借金「1億円」は、債務控除として遺産総額からそのままマイナスできます。
結果として、プラス8,000万円 − マイナス1億円 = 「マイナス2,000万円」となり、他の預貯金などの財産評価までをも大きく引き下げる(遺産総額を圧縮する)ことが可能だったのです 。
相続直前の「駆け込み取得」スキームの終焉
上記のような節税効果は非常に高いため、富裕層を中心に、相続が近いと判断してから慌てて多額の借入れを行い、不動産を購入する「駆け込み取得」が横行していました。
実質的な賃貸経営を目的とせず、税金逃れのためだけに短期間だけ不動産を保有する行き過ぎた租税回避行為に対し、今回ついに明確なルール変更が行われました 。
具体的には、令和9年(2027年)1月1日以後に相続や贈与によって取得する財産について、「課税時期(亡くなった日等)の5年前以内」に新築や対価を伴う取引で取得をした一定の貸付用不動産は、従来の低い評価方法ではなく、「通常の取引価額(実質的な時価)」で評価されることになります 。
つまり、亡くなる直前や数年前に慌てて借金をしてアパートを購入しても、買った値段(時価)に近い金額で評価されてしまうため、遺産総額を圧縮する節税効果がほとんど得られなくなってしまいます。
このように「5年」という明確な期間制限が設けられたことで、駆け込み対策は事実上封じられることになりました 。
※なお、急激な制度変更への配慮として、一定の経過措置も設けられています。
たとえば、「今回の改正通達が定める日までに、被相続人が5年前から継続して所有している土地の上に建物を新築した場合(建築中のものを含む)」などは、取得から5年以内であっても従前どおりの評価が認められる見込みです 。
「不動産小口化商品」は恒常的に時価評価へ
今回の税制改正でもう一つ、大きなターゲットとなったのが「不動産小口化商品」です。
これは都心の一等地に建つ高額なオフィスビルなどを小口に分割し、投資できるようにしたものです。
手軽に少額から不動産の評価減の恩恵を受けられるため、富裕層の相続対策として流行していました。
しかし今回の改正により、不動産小口化商品については「取得した時期がいつであっても、課税時期における通常の取引価額(時価)に相当する金額で評価する」という厳しいルールに変更されました 。
通常の一棟アパート等であれば「取得から5年」を経過すれば従来の低い評価方法に戻ることができますが、不動産小口化商品の場合は例外です。
5年経とうが10年経とうが、評価方法は戻らず、恒常的に時価での評価が強制されます。
これにより、不動産小口化商品を相続税対策として新たに購入するメリットは、ほぼ消滅したと言えます。
現在すでに保有されている方は、ルールの適用(令和9年1月1日)が始まる前に、「相続時精算課税制度」を活用して子どもや孫へ贈与を行い、現行の有利な評価額のうちに評価額を固定し、財産を移転してしまうなどの対策を早急に検討する必要があります 。
これからの相続税対策は「時間軸」が成否を分ける
今回の税制改正大綱が示している国からのメッセージは明確です。
「税金逃れだけを目的とした直前対策や小口化スキームは許容しないが、長期的な視点で行う真っ当な不動産賃貸事業の評価は従来どおり認める」という方針です。
通常の貸付用不動産であっても、5年以上前から計画的に取得・保有し、社会に住宅を供給するという本来の賃貸経営をしっかりと行っているものについては、これまで通りの有利な不動産評価ルールが維持されます。
だからこそ、今後の相続税対策においては、これまで以上に「時間軸」を意識した早期の取り組みが重要になります。
直前対策ではなく、早い段階からの長期的な資産設計が求められます。
「体調が悪くなってきたから、そろそろアパートを建てようか」では間に合いません。
元気なうちから、10年後、20年後を見据えた長期的な資産設計と事業計画を行うことが、ご家族の財産を守る最大の手段となります。
最後に:未来の安心に向けたプラン作りを
税制は毎年少しずつ、時にダイナミックに変化していきます。
過去に成功した節税スキームが、明日も通用するとは限りません。
ご自身で判断される前に、最新の税法や評価ルールに基づいた正確なシミュレーションを税理士と連携して継続的に行うことが不可欠です 。
私、岡崎友彦は、松戸市役所での行政経験を生かし、多角的な視点から皆様の資産防衛をサポートしております。
大学の同級生の皆様をはじめ、地域の方々から多くのご相談をいただいております。
「今持っている不動産は、今回の改正でどう評価されるのか?」
「すでに保有している不動産小口化商品はどう処理すべきか?」など、ご不安や疑問がございましたら、ぜひお早めに当事務所までご相談ください。
制度改正の適用開始(令和9年1月1日)までは、まだ少しの準備期間が残されています。
ご家族の未来の安心を守るため、一緒に「時間」を味方につけた最適な相続対策プランを構築していきましょう。

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